不妊症とは妊娠を希望されているカップルが1年以上妊娠しない場合を指す場合が多く、近年の晩婚傾向で8組に1組が不妊症と言われています。
ただ卵子の加齢を考えれば、1年という不妊期間にこだわらず、可能であれば35歳までに妊娠できるように検査治療することが大切と思われます。
大きく4つの因子が挙げられます。
精子と卵子が出会う卵管が狭窄、閉塞している。
炎症による卵管閉寒の場合、多くはクラミジア感染症が原因です。
射精できない。
あるいは射精した精液内の精子数減少と運動率低下。
排卵が無い、あるいは不規則。
排卵後の黄体機能が低下して着床しにくい。
①子宮頸管因子:
精子の子宮内への侵入が困難。
②子宮体部因子:
着床する子宮内膜面の形態異常、癒着。
※その他には子宮内膜症、抗精子抗体(女性の血液中に精子の動きを阻害する抗体が存在)などがありますが、原因が不明な症例も約20%に見られます。
片側の卵管閉塞であれば、しばらくは経過観察しますが、両側の卵管閉塞なら体外受精が必要です。
症例によっては卵管鏡下手術の紹介も可能です。
射精障害なら薬物療法(バイアグラなど)を処方し、症例によってはマスターベーションで採取した精液を自己注入セットで患者様自身で腔内注入する方法も指導しています。
精子に問題がある場合には異常所見の程度により人工授精・体外受精・顕微授精を行います。
無排卵や排卵が不規則な場合は排卵誘発剤(内服薬・注射)を使用しますが、漢方薬や体重コントロールが有効な場合もあります。
排卵後の黄体機能が低下している場合は排卵前後に黄体機能を刺激する注射や黄体ホルモンの内服薬を処方します。
また排卵誘発剤で最初から排卵をコントロールすると黄体機能が改善することもあります。
排卵直前の子宮頸管粘液に問題ある場合には人工授精で頸管粘液を飛び越えて精子を子宮内に注入します。
子宮内腔にポリープや子宮筋腫などの突出病変があれば、大きさ、部位、数によりますが、
子宮鏡下手術で切除します。
絶対的な不妊の原因があれば体外受精・顕微授精・手術が必要です。
基本検査で問題がなければ、まずタイミング法を6周期(6ヶ月間)試みます。
軽度~中等度の男性因子がある場合、また不妊検査で異常なくてもタイミング法で6か月間妊娠しない場合は、患者さんの希望があれば次のステップの人工授精に移ります。
排卵直前を狙って、精子と卵子が出会う卵管の端に少しでも精子が近づけるように洗浄・濃縮・選別した精液を細いチューブを用いて子宮内腔に注入します。
痛みはほとんどありません。
妊娠率は回数あたり約7%(患者あたりでは約15%)です。
精液は人工授精当日の朝に1時間前には自宅で採取のうえ持参していただきます。
この人工授精を4~6回施行しても妊娠しない場合や卵管因子、中等度~高度の男性因子の不妊症の場合はさらにステップアップします。
精子と卵子を培養液の中で出会わせて、受精すれば受精卵を子宮内に戻します。
妊娠率は受精卵の移植あたり30~40%です。
精子と卵子が出会うだけでは受精しない場合に精子一匹を極細のガラス管を用いて卵細胞の中に人工的に注入する方法です。
妊娠率は体外受精とほぼ同じです。
基礎体温を1~2か月間測定して表に記載のうえ、月経中に受診されることをお勧めします。
内診は行わず、不妊症についての説明を行い、排卵に関与する血中ホルモン値を測定し、子宮卵管造影検査の予約や排卵直前の受診日の指示などを行います。
一連の不妊検査は2周期(2か月間)で終了予定ですが、他の医療機関で行った不妊検査の結果があれば持参してください。
当クリニックでは行っていません。
大きな不妊原因がない場合には、35歳以下で不妊期間が1年以下なら原則6か月間のタイミング法を行います。
勿論、患者さんの希望があれば6か月後もタイミング法を続行したり、6ヶ月間を待たないで早い目に人工授精などへステップアップすることもあります。
血液中に精子の運動性を障害する因子(抗体)を有する女性がおられます。
その抗体が子宮頸管粘液、子宮内腔、卵管内の粘液中に漏れ出して精子の運動性を障害し、精子と卵子の出会いを阻止すると考えられています。
この抗体の強さが軽度なら自然妊娠する可能性もありますが、軽度~中等度ならば人工授精、中等度~高度なら体外受精、顕微授精を行うのが一般的です。
抗ミュラー管ホルモン(AMH)は発育過程の卵胞から分泌されるホルモンで、卵巣内に今後の排卵に向けての卵胞の在庫がどれだけ残っているかを示しています。
この卵胞の在庫の補充はききません、年々減少していく一方です。
ただ、このホルモンは在庫の数の目安であって、在庫の商品(卵胞・卵子)の質の良し悪し、妊娠のし易さを示すものではありません。
ですから、この数値が低い場合は今後治療に利用できる卵子が残り少ない可能性を示しており、注意が必要です。
排卵を誘発するために卵巣を刺激するわけですから、卵巣が腫大し、腹部膨満感(卵巣過剰刺激症候群)を引き起こすことがまれにあります。
また、まれに頭重感を訴える方もおられます。
複数個の卵子が排卵されることもあり、妊娠した方の約30人に1人が双子になると言われています。
そして症例によっては子宮内膜が薄くなったり、子宮頸管粘液が減少、混濁する場合があり、6か月以上クロミッドを単独使用する場合には注意が必要です。
2022年4月より許可されたレトロゾール錠とうまく使い分けます。
それほど正確とは言えませんが、使用する価値はあると思います。
反応が陽性に出だすと2~3日後、強陽性に出ると1日以内の排卵の可能性が高いと言われています。
ただ排卵直後でも陽性反応が残ることには注意が必要です。
人工授精での累積妊娠率は4回以降あまり上昇せず、また当クリニックで人工授精で妊娠した症例の平均施行回数は3.8回であることより、4~6回施行して妊娠しなければ、患者さんの年齢や精液所見を踏まえて体外受精へのステップアップのお話をしています。