男性不妊にお悩みの方へ
2022年から、少子化対策の一環として男性不妊治療の一部が保険適用の対象となり、治療にかかる経済的負担が軽減されました。「不妊症かもしれない」と感じた場合には、お二人で受診し、まずは検査を受けることをおすすめします。
保険診療で治療を受けるためには、以下の条件を満たす必要があります。
- 関連学会のガイドラインに基づき、勃起不全(ED)の診断を受けていること。
- 過去6カ月以内に、一般不妊管理料または生殖補助医療管理料に関連する医療を受けており、その内容が診療報酬明細書に詳細に記載されていること。
- 内服薬の処方は、1回の診療あたり4錠まで(タイミング法による1周期分が目安)。
- 繰り返し処方が必要な場合でも、6カ月以内を基本とし、継続する場合は原則1年以内とすること。
男性不妊は適切な診断と治療を受けることで改善が期待できる場合が多いため、まずは気軽に専門医へご相談ください。
男性不妊とは?
男性不妊とは、男性側に原因があり、不妊症(何らかの治療を行わない限り、自然妊娠がほとんど期待できない状態)となっていることを指します。男性側の問題としては、以下のようなものが挙げられます。
- 造精機能障害:精子を十分に作れない状態。
- 性機能障害:勃起不全(ED)など、性機能に問題がある状態。
- 精路通過障害:精子は作られるものの、射精に至る経路が障害されている状態。
「不妊症」というと、女性側に問題があるイメージを持つ方もいますが、実際には約半数のケースで男性側に原因があるとされています。
男性不妊セルフチェックリスト
男性不妊のセルフチェックをご用意しました。妊活中の方もそうでない方も、一度セルフチェックをしてみましょう。
- 勃起が不十分、または持続しない
- 陰嚢の腫れや痛みがある
- 陰嚢の左右で大きさに違いがある
- 喫煙している、お酒をよく飲む
- 肥満ぎみ、糖尿病や糖尿病予備軍
- 熱いお風呂やサウナを頻繁に利用する
- 過去に抗がん剤治療、下腹部への放射線治療の経験がある
当てはまる項目の数が多いほど、男性不妊の可能性が高くなります。気になる方は、お気軽に当院にご相談ください。
男性不妊の主な原因
男性不妊の原因は、大きく以下の3つに分類されます。
造精機能障害
造精機能障害とは、睾丸の機能に異常があり、精子を十分に作れない、精子の運動性が低い、または奇形精子が多いといった問題が生じる状態を指します。
原因の多くは不明ですが、精索静脈瘤などの病気や、抗がん剤治療・放射線治療が引き金となる場合もあります。ただし、原因が不明であっても治療によって妊娠率を高めることは可能です。
性機能障害
性機能障害には、いわゆる勃起不全(ED)と射精障害があります。
勃起不全(ED)
満足のいく性行為のために必要な十分な勃起が得られない状態を指します。完全に勃起しないケースだけでなく、勃起するものの硬さが不十分、または勃起が持続しないケースも含まれます。
射精障害
勃起はするものの射精に至らない状態を指します。特に、精液が膀胱に逆流する逆行性射精は、射精した感覚があるために受診が遅れることがあります。
どちらの障害も、心因性の要因が関わることが多いです。例えば、妊娠や性感染症に対する不安、性行為中の失敗経験によるトラウマ、不妊治療における「勃起しなければならない」「射精しなければならない」というプレッシャーなどが挙げられます。
精路通過障害
精路通過障害とは、睾丸で精子が作られるものの、射精までの経路に問題があり、精子が体外に出ない状態を指します。精液には精子だけでなく前立腺液や精嚢液も含まれているため、精路通過障害があっても射精が可能である場合が多く、受診が遅れる傾向があります。
主な原因としては以下が挙げられます。
- 先天性の精路の異常
- 逆行性射精
- 鼠径ヘルニアの手術後の影響
早期の診断と治療が、男性不妊の改善に繋がる重要なステップとなります。
男性不妊の検査・診断方法
男性不妊の診断は、主に問診、精液検査、血液検査を通じて行います。
精液検査
自宅または院内で精液を採取し、以下の項目を調べます。
- 精液の量
- 総精子量
- 精子濃度
- 精子運動率
- 正常形態率
精子の量や質は、その日の体調に影響を受けることがあるため、可能な限り体調を整えて検査に臨むことをおすすめします。
血液検査
自宅または院内で精液を採取し、以下の項目を調べます。
- B型肝炎ウイルス
- C型肝炎ウイルス
- 梅毒
- HIV
- クラミジア
- 風疹
男性不妊の治療法
男性不妊の治療は、原因に応じて適切な方法を選択します。治療方法には、薬物療法、手術、人工授精などがあります。
性機能障害に対する治療
逆行性射精には抗うつ薬、勃起不全(ED)にはPDE-5阻害薬を使用する薬物療法が基本です。
薬物療法で十分な効果が得られない場合には、人工授精を検討します。
造精機能障害に対する治療
生活習慣の改善
肥満、喫煙、飲酒を見直すことで精子の質を改善する効果が期待できます。
薬物療法
ホルモン注射、ビタミン剤、漢方薬などを使用する場合があります。
手術
精索静脈瘤が原因の場合は、手術が必要となります。
精路通過障害に対する治療
精路再建術
閉塞部を切除し、精路を再建する方法です。
精巣内精子採取(TESE)
精巣から精子を採取し、顕微授精を行います。
上記の治療でも改善が難しく、ご夫婦が希望される場合には、非配偶者精子を用いた人工授精という選択肢もあります。
男性不妊は適切な診断と治療で改善できる可能性が高いため、早期の受診をおすすめします。